06. ホントにあったトホホな話ーその1、目的と目標、どっちが先か?
ある日の事務局会議でのこと。メンバーのひとりがつぶやいた。
「ところでうちのサイトの目的って何でしょうね?…」
これには誰もすぐには答えられず、皆黙ってしまった。
この後、この問いかけは毎回議題になるが、いつも結論はその場では出ずに、また次回の議題となるのであった。このやりとりは、端で見ていると、結構間抜けである。皆が真面目に議論すればするほど滑稽である。
目的というのは、本来最初に決めるべきではないのだろうか?それに、別に深く考えなくても、最終的に直接的間接的に会社に利益をもたらすことではないのだろうか?それ以外に無いと思うのだが…。
肝心の事務局のメンバーがこれでは、その指示に従う各事業部の担当者や、制作会社に意図が伝わらない。目的の無い(分からない)サイトは何処に向かって進むのか?
さて、この会社では、これまで事務局という組織を設置して、自社のウェブサイトの制作、保守、運営、等に当たってきたが、この度、この既存の体制を見直して、新しい組織を作ろうということになった。それ以来、この「目的は何か?」という(今更なんだけど、でも重要な)議論は、何処かに飛んでいってしまい、みんなは目標の数値(アクセス数)について熱く語っている。新組織の発足に当たって、社長に提示する目標の数値をどうするか?(どのレベルに設定するか?)サイトの目的が分からないまま、具体的な目標を決めようとしている…
「あんまし高く設定して達成できないと困るから、低め(30%アップ、とか)に設定して確実にクリアした方がいいと思う」
「いや、思いっきり高く(3倍、とかに)設定して、決意の程(=やる気、意気込み)を見せないとダメだよ」
「最終的に目標値を達成するかどうかなんて、この際どーでもいいんだよ」
んー…、どれも違うぞ!っていうか、そういう問題じゃないぞ。結局、この人たちがやってることは、すべてポーズだ。体裁や見た目ばかりを気にしている。やってるフリ、考えてるフリ、仕事してるフリ…。上(社長、会長、役員、上司、等)の顔色ばかりうかがっている。
「設定した目標をクリアしました」
「よくやった。エライ」
「設定した目標をクリアできませんでした」
「何をやってたんだ、コラ」
「こんなに高い目標を設定してみました。並大抵のことではクリアできませんが、何とかクリアできるように頑張ります」
「よし、その意気込みだ、いいぞ!」
まるで、先生に誉められようと努力する生徒の様…、ですな。
後で聞いたところによると、社長は「細かいことはどうでもいい。(自分たちが必要だと思うなら)すぐにやれ!」と言ったそうだ。
詳しい内容は聞かずに。
結局、先ほどの議論は時間の無駄だったわけだ。ま、そんなの最初から分かってるけど…。
さて、今回の組織改変、再編成におけるポイントの1つは、「専任組織の発足(=専任担当の配置)」だった。これまでは、事務局スタッフ全員兼任だったので、新たに専任スタッフを置こう、というモノだ。これは最重要課題だったはずなのだが、結論から言うと、専任組織は出来たが、専任担当は一人も置かれなかった。つまり、従来の組織を一度バラして、メンバーをちょっと変えた新しい組織(事務局)は出来たが、構成メンバーは相変わらず、全員兼任(兼務)だった。
何故か?
事務局長以下、当事者達がそうしなかったのだ。
社長は「好きにしろ!」と言った。だから必然性があれば、既存のメンバーの職務や所属を変えたり、新しいスタッフを加えることも出来た。なのに、やらなかった。
では、何故やらなかったのか?
メンドくさいからだ。
人事を変えようとすると色々大変だ。手間が掛かる。大きな組織であれば、余計にそうであろう。面倒なのはイヤだ。それに、自分の部署のスタッフをWEB専任にしてしまうと、本来の業務が手薄になってしまう。それもイヤだ。だったら…、まぁこれまでどおり、兼任でいいか?~ということを、広報も宣伝もデザインもシステムも、みんなが考えたので、結局どの部署からも専任担当は生まれなかった。アレだけ大騒ぎして、結局、事務局の名前と構成メンバーがちょっと変わっただけ。
さらに問題なのは、目標が「アクセス数のアップ」だけ、ということ。
アクセス数を増やした後に、どうする、何をする、ということが何も考えられてない。人を集めて、何をする、何を見せる~ということを考える方が重要だと思うが、それは議論されない。人を集めること、それ自体が目的となってしまっている。
何故か?
彼等は、月に2回の事務局会議以外に、2ヶ月に1回の「推進会議」を開催している。(←会議、多いでしょ?)これには、事務局メンバー以外に、各事業部の担当者(2名づつ)が加わって、30人近い出席者となる。(←人数、多いでしょ?)この会議の中で、毎月のアクセス数の推移を発表するのだが、まるでその為だけにやってるようにも思える。「先月よりも○件アクセスが増えました」とか「ここのところ、順調に伸びています」とかいう為だけに、数字を追っかけているように思える。これも、またポーズだ。体裁だ。WEBサイトのコンテンツで、何か見せたいもの、見て欲しいものがあって、人を集めているのではなくて、数字の増減だけを見て、納得している。
とどめは、これで「ちゃんと予算がついている」ことだ。しかも、○千万円も。それも、事務局専用の費用である。この会社は、製品紹介などの各事業部のコンテンツの制作費は、各事業部が負担しているので、それは含まれない。事務局の費用として関係あるのは、全社共通部分(トップページとか会社概要とか)の制作費、くらいだが、普通に考えれば、それとアクセス数アップの施策の為だけに、まさか、これほどの予算はつかないだろう。
この会社は、ユーザへの直販は行っていないし、取り扱い商品は比較的高額なので、当面B2Cの物販は無い。今のところ、B2Bもネット経由での受注は無い。だから、売上(販売)目標は無いかもしれないが、それでも普通なら、それ以外の何らかの達成目標があるはずだ。でも、この会社には、無い。
つまり、「何に使うか分からないけど、取りあえず、○千万円の予算を確保しました。さて皆さん、このお金をいったい何に使いましょう?」ということである。本来、(全部とは言わないまでも)ある程度、今年はこの時期に何をする、これをする、こういうプロモーションをする…という計画があって、それに基づいて、予算が決まるのではないか?それも無いのに、何を根拠にしてるのか分からないが、高額な予算がついている。これもおかしな話だ。
さてさて、結局、目標は無難な方=30%アップに落ち着いた。そして、その目標は、(目標設定の)一ヶ月後、早くも軽々とクリアされた。2ヶ月目にして、彼等は唯一の目標を失ってしまった。目標の無くなってしまった、この組織はこれから何処に行くのか…???
こう見てくると、何か如何にも彼等がダメダメの様だが、一概にそうとも言えない。個々の能力やスキル以前に、そこには、やはり組織の問題がある。
メンバー全員が兼任だというのも、その1つ。出来れば専任が望ましい。全員じゃなくても、少なくとも中心メンバーは…。いや、必ずしも、専任である必要はない。専任という形式にこだわる必要は無い。別に兼任であっても構わないが、大事なのは、「その仕事に目標と評価が与えられているか?どうか」だ。「その仕事にはノルマが与えられ、評価の対象となっているか」である。
本来やるべき仕事が別にあり、片手間にやっているこっちの仕事(WEB)には、目標(ノルマ)も無ければ、評価の対象にもならない…というのでは、やる気が出るわけが無い。仕事に対する責任感など生まれてこない。みんな、「所詮お手伝いだ」「本来の業務ではない」と、心の中ではいつも思っている。当然モチベーションは低くなる。…という悪循環である。